傘の話

『イギリス人は傘をささない』と言う噂、これは本当です。

イギリスの空は、いつも薄曇りで、常にwetな感じですが、多少の雨が降っていても、傘をさす人は実際ほとんど見かけません。

ポールにその理由を聞くと、「風が強いから雨が横に降る。だから傘をさしても無駄だし持ち歩くのは邪魔なだけ」との答え。

そんな国で育ち、傘をさす習慣がないポールは、日本で生活している今でも、よほどの雨じゃない限り、傘をささず、ウィンドブレーカーのフードを被るくらいで雨の中を平然と歩いています。

「ママのヒルダも、妹のペニーもやっぱり傘をささないの?」と聞くと、「ヒルダも使わないし、ペニーに傘なんか持たせたら凶器になるよ」。

「傘=凶器」といえば、私には、傘にまつわる恐怖体験が。

ある雨の日の深夜。

地下鉄駅からタクシーで帰ろうと乗り場に行くと、停車中のタクシーから、女性が降りてきました。

「乗り場なのに降りてくるなんて変だなー」と思いつつ、そのまま歩み寄り、その女性の前を通り過ぎた瞬間、全身に寒気がはしり、『殺気』とでも言うものを感じたのです。

その女性は、顔面蒼白で、手に白いビニール傘を持っていたのですが、その傘が「凶器」に見え、私は慌てて、彼女が降りたばかりのタクシーに乗り込みドアを閉めました。

雨の中、うらめしそうにタクシーを見送る女性。

運転手さんによると、彼女はタクシーに乗り込むなり、
「お金を貸して欲しい」
と申し出てきたのだそう。

本当に親切なその運転手さんは、私が乗っている間中、
「本当にお金がなくてね。
あれば、貸してあげたかったんだけど。
まだあそこにいるかもしれないから、あの駅に戻るのは嫌だな」

としきりに気にしている様子。

気味が悪いなと思いつつ、翌朝、新聞を見ると、そこにはデカデカと『女タクシー強盗』の記事が。

時間、場所、女性の風貌、すべて完全に一致。

あれほどの『殺気』を感じたのはあの時が初めて。

これから何かことをしでかそうとしている人が発するただならぬ空気・・・、そんな恐怖の体験でした。